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【担当者ブログ】「子ら子ら」公演の見どころと楽しみ方

コンテンポラリーダンス公演「子ら子ら」

ダンスの公演を観ていると、気が遠くなることがあります。

決して眠いとかつまらないとかでなく、ただ、どこか遠いところに思考が飛んで、今何を観ているのか分からなくなってしまう。もちろん、ダンサーの身体は間違いなくここにあり、彼女/彼を見ると、ふっと我に返り、戻ってくる。これを妄想とか想像とか言うのでしょうか。「観ている私」は、確かにここに係留されたまま、たびたび思考が自由に泳ぎ出すような感覚。ダンスを観るとは、私にとって、実に不思議な鑑賞体験です。

今回の「子ら子ら」はダンス作品ではありますが、セリフもあれば歌もあって、初めての人にも観やすい作品だということは間違いありません。
ただ、観やすいというだけで、それが「わかりやすい」ということではないことがこの作品のポイントだと思っています。
康本雅子さんがこの作品を作ってから、もう6年になります。
初演の京都から、横浜、愛知、福島と、いろんなところで上演されてきた「子ら子ら」の堺バージョンを、ぜひ楽しんでください。

康本雅子さんのこと

プロフィールにもある通り、演劇では松尾スズキ、白井晃、柴幸男、長塚圭史の作品に、音楽ではゆず、一青窈、Asa-chang&巡礼などのMVやコンサートにも振付で関わっている康本さん。活動範囲は実に多彩です。
そんなばりばりの康本さんですが、ご本人はまったく飾らず気さくにお話をされる、とってもキュートな方なんです。
他方で、私たちが事前に行ったインタビューでは、踊りへの思いを語る康本さんの表情は、やわらかくも力強いものでした。

そして、いざ本番が始まればもちろんプロの顔。それも場面毎にくるくると変わっていって、表情だけでも見ていてとても楽しい。
当日のパンフレットにもかわいい康本さんがたくさん載っていますので、そのギャップを楽しんでみてください。

舞台セット

作品の舞台は、ぬいぐるみやピアノ、机が置かれている、いわゆる「女の子のお部屋」です。
作品の中では、ピアノも弾く、歌も歌う、そしてむちゃくちゃ喋ります。そう、ダンサーが。
ダンスなのに?と思われそうですが、康本さんは反対に、「舞台なんだから、何が起きたっていい」と言います。

そんな演出になった経緯も、例えば、初演の会場にはたまたまピアノがあって、共演の小倉笑さんが弾けるからピアノのシーンを入れよう、とか、座ってしゃべるシーンが欲しいから机もいるよね、と用意されたとか、そんな具合です。
とても面白い舞台の作り方ではないでしょうか。

去年の7月にフェニーチェ堺を下見された際には、今回の会場である大スタジオのことをとても気に入ってくださいました。堺バージョンへの期待が高まりますね。

母親と子の関係性

親と子の関係性についてのお話なので、刺さる人も多いと思います。
二人の出演者が、取っ組み合いのように絡み合って、はたと離れて駆け回る。かと思えば視線の先を指し示すように同じ方向、遠くを見ている。気がおかしくなりそうなほど同じやりとりを繰り返したかと思えば、1人で勝手に走り出す…

様々なシーンが続き、それをありのまま受け止めていく中に、徐々に味わいのようなものが現れてきます。
目の前で展開されていく部屋の中、「あったあった、こういう空気」とか「そうなんだよ、こんな時こういう顔するんだよな、親って/子どもって」とは、自分の体験が呼び起こされて、比べて考えてしまう。
どこかでいつか見たような家の中の風景がそこにはあります。
(個人的にはずっと不在の父親が気になる……)

アフタートーク

「ただ、観た」で終わってほしくない。今日は、こんなのを観たよと話しながら帰ってほしい。あるいは、その日以降、誰かにそんなことを喋ってほしい。
フェニーチェ堺初のコンテンポラリーダンス公演だからこそ、皆さんそれぞれにしっかり感想を持って帰ってもらいたいなと思っています。

コンテンポラリーダンスは、「何をやっているのか、わかりづらい」と言われがちです。テレビやSNSでも、「よくわからない変な動きをするジャンル」としてひとまとめにされるのを、よく見かけます。

ただそれは観方が分からない、ということから始まっているのではと思います。
あるいは、ダンスを観て「なんだかすごいものを観たぞ」という気持ちになったとしても、それを表現する言葉や視点を自分が持っていないということも原因の一つかもしれません。

今回の「子ら子ら」は、セリフや歌があることで、はっきりと受け取りやすいものが割と多い作品だと思いますが、それでも、観た後すぐに感想を聞かせて、と言われて、すっと言葉にするのは、結構難しいのでは、と思います。
すごいんですよ、ほんとに綺麗、ごっつい。恥ずかしながら、担当の私でも、最初はそのくらいしか言えない。

なので今回は、皆さんが観たものを語るための「視点」をお渡ししようと考えて、アフタートークをご用意しています。
ゲストはあえて、ダンスの専門家ではなく、お話や鑑賞することで活動されている方にお願いをしました。
堺アーツカウンシルの宮浦さんは、美術館での鑑賞プログラムや地域コミュニティでのプロジェクトなどたくさんの現場で活躍されています。目の前で上演された作品のあとで、スピーカーが感じて考えたことをたくさん語ってもらう時間です。
そこから、「自分はそうは思わないな」とか「もっとこう考えられるかも」とか、自由に色んなことを考えてもらいたいです。