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観どころ、聴きどころ♪『マリインスキー歌劇場管弦楽団』(2019/12/8)

若手ヴァイオリニストの旗手・五嶋龍さんに、今回の公演についてうかがいました。

                                                               

―ゲルギエフ氏とマリインスキー歌劇場管との共演について、お聞かせください。  

僕にとって宇宙の中の地球という惑星から発信するにふさわしいオーケストラと僕の音楽を作り上げてくださる人との共演だ、と思います。お客さまには、「忘却にして永遠に刻まれる時」を思いっきり楽しんでいただきたいです。  

―チャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲」について。 

抒情的であり、華やかでもありと、チャイコフスキーらしさを多いに感じられる名曲ですね。 曲全体に、いくつもの抒情的メロディーが紡がれている曲ですから、繊細さを含めてノリのいい半面、冒頭に流れる序奏的部分で示される大地の匂いが曲のベースにあります。そのフィーリングを最後まで持続したうえで自由に歌うことは簡単ではありません。最初から最後まで全てをじっくりと聴いていただきたいです。 この曲を最初に演奏したときのことは覚えていませんが、きっと奏法など未熟だったころだと思います。ですが、毎回、嬉しく弾いていた曲の一つであることは確かです。 以前の録音などを聴きますと、「へえー、今だったらこんなように弾くだろうな。」と思ったり、「そうかそうか」と納得させられたりしますね。 

―以前に「いろんな人の未来に影響する何かに、“音楽”でかかわっていきたい」とお話されていましたが、今も、お変わりないでしょうか。 

自分が海辺の砂の一粒にも足らない存在だとしても、地球を支える一粒が波に洗われて消えゆく、実に頼りなく貴重な一瞬。その間に自分の行動がわずかでも周りの人に人生の刹那に愛着を感じる瞬間を、と思いますが、難しいかもしれません。でもトライはし続けます。音楽を通して社会的に影響を及ぼすことができなくても、ある人達には慰めになるのも事実ですから、自分なりに自分のために続けるでしょう。  

―今回の公演を楽しみにしている堺のお客さまにメッセージをお願いいたします。  

グランドオープン誠におめでとうございます。素晴らしい企画が目白押しに堺にやってきます。その1ページにふさわしいコンサートになるように精一杯演奏します。  

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フェロモン香り立つパワフルさ。ゲルギエフが指揮するマリインスキー歌劇場管弦楽団の演奏会を初めて聴いたときの印象は鮮烈だった。情熱的な仕草でオーケストラに魔術をほどこし、輪郭クッキリした音楽を野太く押し出す。なんと野性のエネルギーに満ちていたことか。 

この指揮者には、もう一つ違う顔がある。音楽の細部まで掘り起こす、仕事キッチリ系、合理主義者としてのゲルギエフだ。しっとり旋律も歌わせつつ、その響きは洗練の度合いを深める。  

野性と合理性、あるいはワイルドにしてモダン。両方の要素を彼は自分のなかに併せもっているのではないか。そして、それら矛盾するもののせめぎ合いこそ、彼の音楽にダイナミズムをもたらしているのではないか。ロンドンやミュンヘンで重要なポストに就き、世界中の楽団に客演、今年はバイロイト音楽祭にもデビューした、現在もっとも多忙な指揮者であることは間違いない。そのなかでも、1988年にオペラ部門の監督、1996年から総裁を務めるマリインスキー歌劇場との仕事をいつもメインに置く。ソ連崩壊に伴う混乱を共に乗り越えた仲間たちとの演奏が、彼にとって何よりも大切なのだ。  

その彼が仲間たちを連れ、今年も来日する。プログラムはロシア尽くしだ。彼らにとってど真ん中すぎるレパートリー、完全に手中に収めた作品ばかり。とくに、チャイコフスキーの協奏曲に加え、2つのロシア・モダニズム作品を並べたこのプログラムは、もっともゲルギエフらしさが発揮されるはず。ワイルドとモダニズムが渦巻く、ゴージャスな演奏会になるだろう。  

鈴木淳史(音楽批評)